[]はじまり

かなしみを知らない町に 一人の詩人が現れた /彼はほのかに香る スパイシーな風にひかれて やってきたのだ /右手には使いこんだ古い万年筆を。左手には何も持っていなかった。 彼は左手で世界を感じて 右手で言葉を綴っていく。 /今、左手はスパイシーな風を感じていた。風の裏側にひそむカナシミを…。 /「昨日?先月?何年前?」 少しずつ、少しずつ、くっきりと 見えてくる。 /彼は旅に出たその日の 記憶を少しずつ たぐりよせた /朝ごはんは、hot milkとpan cake。旅に出てから、ゆっくり食べてないなー。明日は、cafeでpetit dejeunerをとろう!! /新しい言葉を見つける 終わりのない旅のはじまり おいしいものを食べたら きっと おいしい言葉と出会うだろう 今日はこれから どこへ むかおうか?/もうすぐ夏ですね。夏がくる前はホッとしたいものです。心地いい。 /彼は3年前の夏を思い出した。あの夏も彼は旅をしていた。あの夏の 思い出に誘われるがまま、彼は小さな 沼地にたどりついた。 /ふと向こうのほうを見てみると 白いねこが一ぴき、こちらのほうを じーっとみている。 そういえば3年前のあの時にも 会ったような気がする /そのネコに案内されるがままに 歩いていくと そこには一人の女の人が…。 どこかで会ったことのあるような… でも思い出せない。 /その女性は彼に笑いかけた。 「こんにちは」と彼は言ってみた。ねこが彼の足にまとわりついていた。 「あなたの事が好きみたいね」と言って 彼女はねこを抱き上げた。 /その時、彼の左手は あたたかい何かを感じていた /好きなものを好きなところでみる時の 感激ときたら! たのしかったです /ねこはそう彼に話かけたかとおもうと、自分の右の前足のうらを 彼の左手にくっと押しつけた。しばらくしばらく。 …それは柔らかであたたかな ひとときだった。何も持っていなかった左手に、そのとき 何かが存在した。/「ニャーニャーン」 ねこが彼に甘えると ほっこりした彼は 顔をほころばせ 鼻歌をうたい始める。/雨が降っていた。彼は傘をささずに歩いた。いい気持ち。/今も雨がふった。でもこのあたりでは 晴れても、雨でも、それなりにちがった ここちよい風情がある。/女性に別れを告げ、彼は一人で歩き出した。そこには 一匹の猫もいた。/と同時に太陽も顔を見せた。/ココロが まっすぐ ニナッタ /どこにでも行ける気がした。そして どんな 言葉も もういらないと 思った。自分が綴ってきたものは 夢でしかなかったのだと… /そういえば あのコは どうしたんだろう。フランソワ と ウメボシは…。/おかしいな…。彼はふっと口元をほころばせ クスリと笑った。あとのない旅に出たつもり なのにね。きづけば フランソワとウメボシのこと を気にかけているなんて! だけどあるいはこんなのも ボクらしいかもしれない。彼は足元に広がる 草地にねころがった。太陽が目に染みる。だけど痛くなんてないよ。/フランソワに手紙をかこう 宛先?そんなの おぼえてないけど、なんとかなるよ、きっと大丈夫。それにあてのない旅をするボクにでたらめな 宛名の手紙なんてピッタリさ。梅干しのすっぱさを 思い出しながら 手紙をかこう。おひさまのにおいもボクの味方さ。/彼は言葉を綴り出した。夢ではなく、彼の言葉を。心が開放された彼には、すらすらと 彼自身の言葉が出てきた。気づけば、右手も左手も関係なく 体全体で世界を感じていた。/そうして 彼は 真っ白な封筒に だいじに だいじに コトバをつめて…思いました。「届けたい」と。彼はコトバを伝えるための旅に出たのでした。 

つづく…