珈琲屋ルパン

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 そのむかし。お城のような喫茶店がありました。名前をアルセーヌ・ルパンといいます。

店の前にある樹にはトリコロールの旗がひらめき、まっしろな壁とそれにつたうアイビーが見るものの想像力を膨らませます。木の葉色のレンガでできた階段を上って中に入っていくと、薄暗い店内には7席ほどのテーブルが並んでいます。珈琲はブレンドアメリカン、モカ、サントス、ブルーマウンテン。ブルーマウンテンを注文すると、特別なカップに入れてくれたものです。

 

 この喫茶店には個室がひとつありました。中には店主ご自慢の古い珈琲器具が造り付けのガラス棚にきちんと並べられており、気の遠くなるような重い沈黙を保っていました。この個室でミステリーサークルのミーティングが行われたこともありましたっけ。詳細に記された怪盗や探偵の資料が研究会のレベルの高さをうかがわせるものだったように記憶しています。その貴重な資料が忘れ物として残されていたとしても、研究会のレベルを何ら損ねるものではありません。

 

 小さなころから、この城に住むことを夢想していた私が、最後のウエイトレスになろうとは思いもよりませんでした。またいつか再開すると店主は申しておりましたが、仕舞い込まれた古い珈琲器具同様、重い沈黙のなかに今もあります。



(コーヒー祭によせて)